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神戸地方裁判所 平成3年(行ウ)26号 判決

原告

学校法人大阪青山学園

右代表者理事

塩川利員

右訴訟代理人弁護士

金谷康夫

香川公一

被告

猪名川町長

上神光雄

右訴訟代理人弁護士

福村武雄

村田勝彦

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  昭和六三年(行ウ)第二八号(以下「第一事件」という。)

被告が昭和六三年三月三〇日付けでした特別土地保有税にかかる非課税土地否認決定及び同年三月三一日付けでした特別土地保有税決定処分並びに同年一一月二日付けでした異議申立に対する決定処分をそれぞれ取り消す。

(二)  平成元年(行ウ)第二七号(以下「第二事件」という。)

被告が平成元年六月二三日付けでした特別土地保有税にかかる非課税土地否認決定及び同年八月八日付けでした異議申立に対する決定処分をそれぞれ取り消す。

(三)  平成二年(行ウ)第二三号(以下「第三事件」という。)

被告が平成二年六月二一日付けでした特別土地保有税にかかる非課税土地否認決定及び同年八月二〇日付けでした異議申立に対する決定処分をそれぞれ取り消す。

(四)  平成三年(行ウ)第二六号(以下「第四事件」という。)

被告が平成三年六月二〇日付けでした特別土地保有税にかかる非課税土地否認決定及び同年八月二九日付けでした異議申立に対する決定処分をそれぞれ取り消す。

(五)  平成四年(行ウ)第三七号(以下「第五事件」という。)

被告が平成四年六月二〇日付けでした特別土地保有税にかかる非課税土地否認決定及び同年七月三〇日付けでした異議申立に対する決定処分をそれぞれ取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五七年一二月二八日、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地(1)」という。)を購入し、所有しており、昭和五八年三月一日、被告に対し、右土地にかかる特別土地保有税の非課税土地認定申請をし、被告は、同年三月八日付けで同土地の特別土地保有税を昭和五八年三月一日から昭和六二年三月三一日までの間、徴収を猶予する旨の決定(以下「本件徴収猶予決定」という。)をした。

2  原告は、昭和六〇年三月五日、別紙物件目録記載二の土地(以下「本件土地(2)」という。)を取得し、昭和六一年七月四日、特別土地保有税の非課税土地認定申請をしたが、被告は、本件土地(2)については特別土地保有税の非課税土地認定をせず、昭和六一年八月二七日付けで本件徴収猶予決定を取り消した(以下「本件徴収猶予取消決定」という。)。

3  原告は、昭和六二年四月六日、本件土地(1)の残りの持分である別紙物件目録記載三の土地(以下「本件土地(3)」という。)を取得した。

4(一)  第一事件について

原告は、昭和六二年九月二四日付けで、本件土地(3)にかかる特別土地保有税の非課税土地認定申請をしたが、被告は、昭和六三年三月三〇日付けで、特別土地保有税非課税土地否認決定処分をし、さらに、同年三月三一日付けで、本件土地(1)及び(2)の昭和六二年度保有分として特別土地保有税決定処分をした。

原告は、昭和六三年五月二五日付けで、被告に対し、右特別土地保有税非課税土地否認決定処分並びに特別土地保有税決定処分について異議を申し立てたが、被告は、同年一一月二日付けで、右異議の申立てを棄却する旨の決定をした。

(二)  第二事件について

原告は、平成元年五月三一日付けで、本件土地(1)ないし(3)(以下、併せて「本件土地」という。)にかかる特別土地保有税の非課税土地認定申請をしたが、被告は、同年六月二三日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税非課税土地否認決定処分をした。

原告は、同年七月一九日付けで、被告に対し、右特別土地保有税非課税土地否認決定処分について異議を申し立てたが、被告は、同年八月八日付けで、右異議の申立てを棄却する旨の決定をした。

(三)  第三事件について

原告は、平成二年五月三〇日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税の非課税土地認定申請をしたが、被告は、同年六月二一日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税非課税土地否認決定処分をした。

原告は、同年七月二三日付けで、被告に対し、右特別土地保有税非課税土地否認決定処分について異議を申し立てたが、被告は、同年八月二〇日付けで、右異議の申立てを棄却する旨の決定をした。

(四)  第四事件について

原告は、平成三年五月三一日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税の非課税土地認定申請をしたが、被告は、同年六月二〇日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税非課税土地否認決定処分をした。

原告は、同年七月八日付けで、被告に対し、右特別土地保有税非課税土地否認決定処分について異議を申し立てたが、被告は、同年八月二九日付けで、右異議の申立てを棄却する旨の決定をした。

(五)  第五事件について

原告は、平成四年五月二八日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税の非課税土地認定申請をしたが、被告は、同年六月二〇日付けで、本件土地にかかる特別土地保有税非課税土地否認決定処分をした。

原告は、同年七月四日付けで、被告に対し、右特別土地保有税非課税土地否認決定処分について異議を申し立てたが、被告は、同年七月三〇日付けで、右異議の申立てを棄却する旨の決定をした。

5  本件土地は、いずれも学校法人としての原告が教育の用に供する土地として取得したものであって、以下に述べるとおり、地方税法上特別土地保有税非課税該当地であることは明らかであり、本件土地が特別土地保有税非課税該当地でないことを前提として被告がした本件徴収猶予取消決定は、特別土地保有税の解釈を誤り又は事実誤認に基づくものとして、重大かつ明白な瑕疵がある。

(一) 地方税法上定められている「特別土地保有税」の制度は、土地の投機及び地価の高騰の抑制のために創設された税制であって、学校法人が学校用地として文部大臣の承認の下に買い入れた土地は、学校法人の基本財産に組み入れられたものである限り、監督官庁の許可・承認なくして処分しうるものではない。

原告は、本件土地(1)を取得するに際しては、文部大臣より本件土地を学校用地として使用する旨の認定を受けており、また、本件土地(2)は当時の兵庫県川辺郡猪名川町(以下「猪名川町」という。)の町長である原豊作の仲介・斡旋によって取得している。

このような経過に照して、土地の転売による利益獲得を目的とする一般の法人の土地取得と原告による本件土地の取得とは全く異質なものであり、およそ特別土地保有税の設けられた趣旨から考えて本件について課税をすることができるものではない。

(二) 現実に、学校用地として造成するための本件土地の開発行為が遅れているのは、以下のような事情に基づくものである。

(1) 原告は、昭和五七年に本件土地(1)を取得したが、本件土地(1)については、一筆の土地を持分二四分の二一の割合で所有するものであって、昭和六二年までは、その余の二四分の三は他人の持分であった。

(2) 一方、本件土地(2)は、本件土地(1)及び(3)の土石を用いて谷を埋め、その後学校用地として用いるものであるから、本件土地(2)のみでの開発、造成、使用はできないものである。

(3) したがって、原告は、昭和六二年に本件土地(3)を取得するまでは本件土地の開発に着手することはできず、猶予取消の処分がなされた昭和六一年八月二七日までに開発造成等を行うことはできなかった。

(4) 原告は、本件土地(3)を取得するまで、本件土地の測量等の調査や具体的な計画の立案、研究等を行ってきており、本件土地の開発造成を放置していたわけではない。

以上の事実に鑑みるならば、学校用地として本件土地の開発が遅れているのはやむを得ない事情に基づくものというべきである。

(三) 本件徴収猶予取消決定は、実質的には一旦非課税として扱ってきたものを改めて課税する処分であるから事前手続として期日を定めて、弁明の機会、聴問手続の開催又は文書による明確な資料提出の機会を与えることが適正手続を要求する法の趣旨から要請されるにもかかわらず、右決定処分においてかかる手続は履践されていない。

6  さらに、被告は、本件徴収猶予取消決定後における原告の事前協議の申入れに対して内容的に不能に近い条件をつけるなど、原告の申入れに対して真摯な対応をしない。

被告は、原告に対し、八メートル以上の取付道路を要求しているが、これは莫大な費用若しくは既存民間住宅地の買収、緑地の指定解除がなければ実行することができないものであり、不可能ないし極めて困難な条件を付している。

前記4記載の各決定処分(以下「本件決定処分」という。)は、前述のとおり無効な本件徴収猶予取消決定並びに被告が原告に課した右のような不能又は著しく困難な条件を前提としてされた処分であって、課税の要件を欠き、違法なものであるから、その取消しを免れない。

7  原告は、前記4記載の特別土地保有税非課税土地否認決定及び特別土地保有税決定処分に対し、それぞれ異議を申し立てたが、被告は、原告に対し口頭による意見陳述の機会さえも与えず、右異議申立を棄却する旨の決定をした。

一般に不服審査手続の段階で不服を申し立てた者に対し口頭による意見陳述の機会を与えることは、その者の重要な防禦権として必要不可欠なものであり、これを無視して異議申立を棄却した右決定はいずれも取り消されるべきである。

8  よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  請求原因5、6の事実ないし主張は不知又は争う。

3  請求原因7は争う。

三  被告の主張

1  本件徴収猶予取消決定について

(一) 原告が昭和五八年三月一日付けで被告に対して提出した本件土地(1)についての特別土地保有税非課税土地認定申請書の用途欄には、同土地を「校地(運動場としてバレーボール、バスケットボール、陸上競技等に使用)」とする旨記載されており、被告は、その他の関係書類、諸事情等を考慮の上、原告が本件土地(1)を総合グランドとして利用するものと認定し、昭和五八年三月八日付けで本件徴収猶予決定をした。

(二) その後、原告が本件土地(2)を取得し、昭和六一年七月四日付けで被告に対して提出した同土地についての特別土地保有税非課税土地認定申請書添付の計画書、計画図面では、右土地の利用計画は「総合グランド、セミナーハウス、自然観察林」となっており、前記徴収猶予の基礎となった当初の利用計画と相違があり、しかも自然観察林は土地取得時の現況と同じ山林地のままでの計画であり、特別土地保有税非課税土地の要件である「直接教育の用に供する土地」として使用することに疑義が生じたので、被告は、原告に対し、その相違点について説明を求めたが、原告から右土地の具体的な利用計画は示されなかった。

被告は、その後も原告に対し、右土地の具体的な利用目的の提示、あるいは当初の開発計画書の着工期限が徒過していることから、再度開発計画書の提出を求める等の要請をしたが、原告は、何らの回答をなさず、被告の事情聴取に対して再三にわたり利用計画の変更を行い、具体的な土地利用計画書の提出要請にも応じなかった。

以上のとおり、原告は、本件土地の利用計画について終始消極的態度をとり続けたため、被告は、徴収猶予にかかる本件土地を非課税土地として使用することの確証が得られなくなったので、昭和六一年八月二七日付けで本件徴収猶予取消決定を行った。

2  地方税法五八六条二項二八号、三四八条二項九号は、学校法人が所有する固定資産をすべて非課税としているわけではなく、「学校において直接保育又は教育の用に供する固定資産」を非課税としている。

右にいう「直接保育又は教育の用に供する固定資産」とは、現実かつ直接に教育の用に供している固定資産をいうところ、本件土地は買い受けたままの山林素地であって現実に右用途に利用されておらず、又直接教育の用に供される土地として使用していることが認定できる客観的資料も認められない。

したがって、本件土地を特別土地保有税非課税土地として認定しなかったことは適法である。

3  本件徴収猶予取消決定前の事前手続について

被告は、本件徴収猶予取消決定に先立つ昭和六一年六月二八日から右処分がなされた同年八月二七日までの間において、原告の事務長及び担当事務員と数回面接し、当該土地利用計画に関して事情聴取を行っており、その他原告に対し電話による催告をしたが、原告から具体的な利用計画が示されなかった。

被告は、以上のような事実経過の下で、右処分に及んだものであり、右処分前の事前手続は適法に行われている。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張はすべて争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二被告のした本件徴収猶予取消決定について

1  〈書証番号略〉、証人真下利晴及び同西村悟の各証言によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、本件土地(1)を購入するに際し、昭和五七年一二月二五日、登録免許税の免税措置を受ける目的で文部大臣から同土地を運動場として利用することの証明を受けた。

その後、原告は、右土地につき用途・目的を校地(運動場としてバレーボール、バスケットボール、陸上競技等に使用)として、昭和五八年三月一日付けで特別土地保有税非課税土地認定申請をし、同年三月八日付けで、同年三月一日から昭和六二年三月三一日まで同土地についての特別土地保有税の徴収を猶予する旨の決定を得た。

(二)  さらに、原告は、昭和六〇年三月五日、当時猪名川町長であった原豊作の仲介・斡旋により本件土地(2)を取得し、本件土地の用途につき、総合グランド、セミナーハウス、自然観察林等として、昭和六一年七月四日付けで本件土地(2)の非課税土地認定申請をした。

(三)  本件土地(2)についての右申請中に記載された本件土地の用途につき、昭和五八年三月一日付けの徴収猶予の際には記載されていなかったセミナーハウス、自然観察林等の計画が加わっており、さらには、当初、原告所有地内のみでの開発計画であったのが、原告以外の所有地も含めた開発計画が立てられていた。

そこで、被告は、本件土地の利用計画の具体性について疑義があるとして、原告に対し、具体的な開発計画書を提出するよう数回にわたり口頭で要請し、昭和六一年八月一二日には、文書により同月二二日までに開発計画書を提出するよう求めたが、原告は、新たに開発計画書を提出することはできず、同年七月四日付けで提出した本件土地(2)の非課税土地認定申請書に添付されている開発計画書で対処する旨被告に通知した。

(四)  被告は、原告の当初の計画によると本件土地の開発が昭和六二年に終了する予定であったにもかかわらず、昭和六一年の八月になっても着工されず、新たに具体的な開発計画書の提出もされなかったため、同年八月二七日付けで、本件土地(1)についての特別土地保有税徴収猶予決定を取り消した。

2(一)  原告は、右1(一)、(二)記載のとおり、本件土地(1)を運動場として利用する旨の文部大臣の証明を得ている上、本件土地(2)は、当時の猪名川町長原豊作の仲介・斡旋により購入しており、学校用地として利用する目的を持って取得しているのは明らかであり、学校用地として特別土地保有税が課税されないものである以上、特別土地保有税が課税されることを前提としてされた本件徴収猶予取消決定は違法であると主張する。

(二) 地方税法五八六条二項二八号、三四八条二項九号によれば、学校用地として利用される土地のすべてについて特別土地保有税が当然に非課税とされるわけではなく、学校法人等が「直接保育又は教育の用に供する固定資産」について特別土地保有税が課されないものとされている。

ここに「直接保育又は教育の用に供する」とは、直接保育又は教育のためにのみ使用されることを常態とするものをいい、単に教育の用に供されることがあるというだけではこれに該当しないと解すべきである。

本件において、〈書証番号略〉によれば、原告は、本件土地の一部を自然観察林として利用しようとする計画を立てていることが認められる。

この点、〈書証番号略〉によれば、原告の幼児教育科のカリキュラムとして「自然」が含まれていることが認められ、現況のまま自然観察林として本件土地を利用しようとすることも教育の用に供する土地の利用の一形態であると一応は認められる。

しかし、原告が予定している自然観察林としての土地の利用は、その土地を現況のまま、観察・見学等により教育の用に供しようとするものに過ぎず、教育のみを目的とした土地の利用とはいうことはできず、また、右のような利用をもって、教育の用に供されることを常態とするものということはできない。

したがって、自然観察林という名の下に現況のまま利用しようという土地を「直接保育又は教育の用に供する」ものということはできない。

(三)(1)  また、学校用地にかかる特別土地保有税は、現実に学校用地としての用に供されたときに初めて非課税となるものであり、右徴収猶予は、現実に学校用地としての用に供されるまで、開発に相当の期間を必要とすることに鑑み、現実に学校用地としての用に供されるまでの期間における税の徴収を特に猶予しようというものである。

右の趣旨に照らせば、右徴収猶予に際し、将来、学校用地として利用されることの証明として、具体的な学校用地としての開発計画等の提出が要求されるのはやむを得ないことである。

(2) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告が本件土地(2)についての特別土地保有税の徴収猶予を受けようとする際に提出した本件土地の開発計画は、本件土地(1)について同税の徴収猶予決定を得た際に提出した開発計画と比べて、用途としてセミナーハウス、自然観察林が加えられ、計画地も原告の所有地のみを対象地としていたのが、原告以外の他人所有地も計画地に含まれることとなっている。

しかも自然観察林は現況有姿のままでの利用であり、同税の徴収猶予の対象となる「直接教育の用に供する土地」に該当するか疑義を生じうるものである。

右の事実によれば、被告としては、本件土地の開発計画の具体性について疑問を持つに至るのが当然であるということができ、このような状況の下で、原告が引続き特別土地保有税の徴収猶予を受けようとするのであれば、被告に対し、より具体的な開発計画を提示することが要求されるものと考えられる。

後述するとおり、原告は、被告から数回にわたり具体的な開発計画書の提出の要求を受けたことが認められるが、これに対し、原告は、本件土地(2)を取得した際に提出した開発計画書以上に具体的な開発計画書を被告に対して提出していない。

原告が提出した右開発計画書は、被告が開発計画の具体性について疑問を持つ原因となった開発計画書であり、これと同一内容の計画書を再び提出しても何ら被告の右要求に答えたことにはならない。

原告は、本件土地(1)及び(2)のみでは実際に開発行為に着手することができなかった理由を種々主張しているが、現実に開発行為に着手できなかったとしても、被告の要求に応じて具体的な開発計画書を提出することは可能であったはずである。

(3) したがって、本件において原告が被告の要求に応じて、被告に対し具体的な開発計画書を提出していない以上、被告が、本件土地が将来学校用地として利用に供されると判断できないとして、同土地の特別土地保有税の徴収猶予決定を取り消したことに違法な点はないといわなければならない。

また、前記認定のとおり、原告が本件土地を取得したのは、当時の猪名川町長の仲介・斡旋によるものであるが、本件土地取得時に右のような事情があったとしても、特別土地保有税の課税要件がそれにより影響を受けるとは解せられないから、被告が本件の処分に当たり、右に述べたように、本件土地が将来学校用地として利用されると判断できないとしたことは、何ら違法ではない。

3(一)  原告は、本件徴収猶予取消決定に先立ち、原告に対し、弁明や資料提出の機会が与えられず、適法な事前手続が行われなかったとして、被告のした徴収猶予決定には瑕疵があると主張する。

(二)  証人西村悟の証言によれば、被告は、本件徴収猶予取消決定に先立ち、原告の担当者との間で、打合せや事情聴取を4.5回くらい行っているということであり、証人真下利晴も、原告は、被告が原告に対して開発計画書の提出を要求した昭和六一年八月一二日付けの書面の送付を受ける以前から、猪名川町を数回訪れ、その際に口頭で被告から具体的な開発計画書の提出を催促され、右開発計画書を提出しないと本件徴収猶予決定を取り消して課税することもありうると示唆されていたと証言している。また、〈書証番号略〉によれば、被告は、昭和六一年八月一二日付け書面で、原告に対し、具体的な理由を挙げて、開発計画書を同月二二日までに再度提出するよう求めたことが認められる。

右各事実によれば、原告は、本件徴収猶予取消決定以前に被告から事前聴取等を受け、数回にわたり口頭又は書面で被告から具体的な開発計画書の提出を要求されていることが認められ、その際に弁明をしたり、資料を提出することも可能であったといえる。そして、開発計画書の提出期限とされた昭和六一年八月二二日までに、原告において新たな開発計画書を提出しなかったため、本件徴収猶予取消決定がされたと認められる。

(三)  したがって、徴収猶予取消決定に先立ち、適法な事前手続が行われなかったという原告の主張は採用できない。

4  以上によれば、本件徴収猶予取消決定は適法であると認められる。

三本件徴収猶予決定取消後の事情について

1  〈書証番号略〉によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、本件徴収猶予取消決定後、昭和六一年一二月一二日付けの文書により被告に対して猪名川町土地開発事業指導要綱第四条の規定に基づく事前協議を申し入れ、これに対し、被告から昭和六二年一月二四日付けの右事前協議の申し入れに対する回答書を受領した。

右回答書には、都市計画法及び森林法の許可を得ること、土地開発事業指導要綱の承認を得ること等、一三項目にわたる条件が付けられていた。

(二)  同年二月八日には、猪名川町役場において、原告側から株式会社熊谷組社員の串原功、被告側から中西副課長が出席して、猪名川用地開発計画、町への中間報告及び打合せが行われ、その際に、被告側から進入路として「幹線道路八メートル以上の取付」という条件が出された。

2  原告は、右各条件は不可能ないし著しく困難なものであり、特に右進入路の取り付けは、猪名川町のした緑地帯の指定の解除を得て造成するか、民間の住宅地を買収して造成せざるを得ないもので、被告の付した右各条件の付与は、原告の開発を妨害する不当なものであると主張する。

しかし、右各条件は、証人西村悟の各証言によれば、被告が土地開発事業指導要綱に基づき付与したものであり、特に原告に対してのみ不当に厳しく課されたものではないということである。

この点、原告は、被告のした右各条件の付与は、特に原告の開発・造成に対し、妨害的に行われた旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

3  したがって、原告の右主張は採用することができない。

四さらに、原告は、被告のした特別土地保有税非課税土地否認決定及び特別土地保有税決定処分に対して原告が異議を申し立て、口頭による意見陳述の機会を与えるよう請求したのに対し、被告は、右手続を行わないまま異議申立てを棄却する決定をしているから、かかる異議申立てを棄却した決定は、原告の防禦権を侵害したものとして取り消されるべきであると主張する。

しかし、右に述べたとおり、原告が右各決定処分に対して申し立てた異議事由は、いずれも採用することができないし、また、〈書証番号略〉によれば、原告は、第一事件における異議申立手続の中で、口頭意見陳述要旨と題する書面を代理人弁護士名義で提出していることが認められ、これによれば、原告の主張は、一応被告に対して開陳されているということができるから、異議申立手続において、口頭による意見陳述の機会がなかったとしても、異議申立に対する棄却決定が直ちに違法となるものではない。

したがって、異議申立手続の瑕疵を理由とする異議申立て手続の取消請求は認めることができない。

五結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官影浦直人)

別紙物件目録

一 所在 兵庫県川辺郡猪名川町内馬場字細胡桃

地番 三二番の一

地目 山林

地積 六七四三八平方メートル

のうち、所有権の持分二四分の二一

二 所在 兵庫県川辺郡猪名川町内馬場字細胡桃

地番 三二番の二

地目 山林

地積 五七五一四平方メートル

三 所在 兵庫県川辺郡猪名川町内馬場字細胡桃

地番 三二番の一

地目 山林

地積 六七四三八平方メートル

のうち、所有権の持分二四分の三

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